アサガオ(朝顔)の花が、朝と夕方で少し色が変わって見えることがあります
この美しい現象の背景には、花の中で起きている化学反応と植物の生理的な変化が深く関係しています。
以下では、アサガオの色変化を生み出すメカニズムを、科学的にわかりやすく解説します。
花の色を決める「アントシアニン」という色素
アサガオの花の色は、主にアントシアニン(anthocyanin)と呼ばれる色素によって決まります。
このアントシアニンは、酸性やアルカリ性といったpH(ペーハー)の変化に敏感で、環境によって次のように色が変化します。
- 酸性(pHが低い) … 赤みが強くなる
- 中性〜アルカリ性(pHが高い) … 青みが強くなる
つまり、同じ花でも細胞内のpHが変化するだけで色調が変わるのです。
朝と夕方で色が変わる仕組み
開花時の変化:つぼみから開花までの「青化反応」
アサガオのつぼみは開く前、やや赤紫色をしています。
これは、花弁細胞内の液胞(色素を含む小さな袋)のpHがやや酸性(約6.6)だからです。
ところが、花が開く直前から急速に液胞pHが上昇(約7.7)します。
このアルカリ化によってアントシアニンが青色に変化し、開花時には鮮やかな青色が現れます。
このpHの上昇は、単なる外的条件ではなく、花弁細胞内で働くNa⁺/H⁺交換輸送体(NHX1/2)などの働きによって能動的に起こる現象です。
つまり、アサガオは自分で花の色を「青くするスイッチ」を入れているのです。
夕方の変化:老化による再びの酸性化
アサガオは「一日花」と呼ばれ、朝に咲いて夕方にはしぼむ運命にあります。
時間が経つにつれて花の細胞は老化し、代謝が低下していきます。
その結果、液胞内のpHは再び下がり、やや酸性に戻る傾向を示します。
このpH低下によって、花の青色は少しずつ赤みや紫がかった色へと変化します。
同時にアントシアニン自体の分解や、細胞構造の変化も進むため、色がくすんで見えることもあります。
光と温度の影響
アサガオの色変化は主に液胞内のpHによるものですが、光や温度も補助的に関係しています。
- 光の影響:朝の光はアントシアニンの合成を促進し、色をより鮮やかにします。
- 温度の影響:高温では代謝が活発になり、色の変化が早まる傾向があります。逆に涼しい環境では、色の変化がゆるやかになります。
ただし、これらの要素はあくまで副次的な要因であり、花の色相変化の主因はやはり細胞内pHの変動です。
土壌pHとの関係についての誤解
アサガオの花色については「土壌のpHが関係している」と言われることがありますが、日内の色変化(朝と夕方の違い)には、土壌pHはほとんど関与しません。
土壌のpHが花色に強く影響する代表的な植物は「アジサイ」で、これはアルミニウムイオンとの反応によるものです。
一方でアサガオの色変化は、花自身の細胞内環境の変化によって起きる、まったく別のメカニズムです。
その他の要因:共色作用と金属イオン
アントシアニンの色は、他の分子との相互作用によっても変わります。
特にフラボノイドなどの共色物質やマグネシウム・アルミニウムなどの金属イオンが関与すると、色がより安定したり、微妙な青紫に変化したりします。
アサガオでもこのような「共色作用」が花色の微妙な違いを生み出す一因と考えられています。
まとめ
アサガオが夕方に色を変える理由は、主に花弁の液胞内pHの変化によってアントシアニンの色が変わるためです。
- つぼみ:酸性 → 赤紫色
- 開花(朝):アルカリ性 → 青色
- 老化(夕方):再び酸性化 → 赤紫・くすんだ色
この現象は、植物が自らの細胞内環境を調整しながら花の色を変えるという、非常に興味深い生理的プロセスです。
また、この理解はアサガオの品種改良や観賞性の向上にも役立つ重要な知見となります。
以上、アサガオが夕方に色が変わる理由についてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
