MENU

イギリスの薔薇の歴史について

イギリス,イメージ
目次

古代と中世:ローマの遺産と信仰の象徴

古代ローマと薔薇の導入

イギリスに薔薇がもたらされたのは、古代ローマ時代にさかのぼります。

ローマ人は薔薇を香水や薬、装飾品として愛用しており、薔薇を用いた祝宴や宗教儀式も盛んに行いました。

彼らがブリテン島に進出した際、この文化もともに伝わり、イギリスの地で薔薇の栽培が始まったとされています。

ただし、ブリテンにはもともとドッグローズ(Rosa canina)など、野生のバラが自生していました。

ローマ人はそれらの野生種に、栽培品種と庭園文化という新たな価値をもたらしたのです。

中世の薔薇と宗教的象徴

中世に入ると、薔薇は単なる花を超え、宗教的な意味を帯びるようになります。

特に聖母マリアとの結びつきが強く、「聖母の花」として崇拝されました。

「ロザリオ(Rosarium)」という言葉はもともと「薔薇園」「薔薇の花冠」を意味し、祈りの珠の連なりを花冠に見立てたものです。

修道院や教会の庭では薔薇が多く植えられ、その香りと美しさが信仰の象徴となりました。

薔薇戦争とテューダー・ローズ:政治と花の融合

白薔薇と赤薔薇の戦い

15世紀、イギリスを揺るがした内乱「薔薇戦争(Wars of the Roses)」は、ヨーク家の白薔薇とランカスター家の赤薔薇の紋章に由来します。

この戦争は1455年から1487年にかけて続き、王位継承をめぐる血なまぐさい争いとなりました。

なお、「薔薇戦争」という名称自体は当時使われていたわけではなく、18世紀に入ってから歴史家によって定着した呼び名です。

テューダー朝と統一の象徴

最終的にランカスター側のヘンリー・テューダー(ヘンリー7世)が勝利し、ヨーク家のエリザベスと結婚することで両家の融和を象徴しました。

その象徴として誕生したのが、赤と白を組み合わせた「テューダー・ローズ」です。

この花こそ、現在に至るまでイングランドの国花として知られています。

ルネサンスから近世へ:庭園文化の発展

貴族社会と庭園デザイン

16〜18世紀にかけて、薔薇はイギリス貴族の庭園に欠かせない存在となりました。

ルネサンスの影響で幾何学的な庭園様式が広がり、薔薇は美と秩序の象徴として配置されました。

この時期にはさまざまな品種改良が試みられ、庭園芸術と植物学が融合する基盤が形成されます。

ヴィクトリア朝の黄金期:薔薇熱の高まり

産業革命と園芸ブーム

19世紀のヴィクトリア朝時代、イギリスでは産業の発展とともに園芸文化が一般庶民にも広がりました。

バラの交配・改良は飛躍的に進み、次々と新しい品種が誕生します。

1858年7月1日には、ロンドンのセント・ジェームズ・ホール(St. James’s Hall)で、英国初の全国規模の専門バラ展「Grand National Rose Show」が開催されました。

この展示会は大成功を収め、翌1860年にはクリスタル・パレスで開催され、来場者は1万6千人に達したと記録されています。

これを契機に、バラは“国民的な花”として確固たる地位を築きました。

現代の薔薇:育種と文化の融合

モダンローズの誕生

20世紀に入ると、薔薇の品種改良はさらに進化します。

ハイブリッド・ティー(Hybrid Tea)やフロリバンダなど、四季咲き性や花形を重視した「モダンローズ(現代バラ)」が誕生しました。

ただし、こうした近代種は花形の美しさや開花回数を優先したため、香りが弱くなる傾向もありました。

その流れに新たな風を吹き込んだのが、英国の育種家デビッド・オースチンです。

彼はオールドローズの芳香とモダンローズの性質を融合し、1961年に発表した『コンスタンス・スプライ』を皮切りに、「イングリッシュ・ローズ」という新たなカテゴリーを確立しました。

これにより、イギリスは再び世界の薔薇育種の中心地となり、その名声は現在も続いています。

名園とフェスティバル:今に息づく薔薇文化

名園に咲く薔薇たち

イギリス各地には、薔薇を主役とする名園が数多く存在します。

代表的なのがキュー・ガーデン(Royal Botanic Gardens, Kew)とサヴィル・ガーデン(The Savill Garden)です。

キュー・ガーデンのローズガーデンは、19世紀の庭園設計家ネスフィールドの構想を受け継ぎ、現在では約170品種の薔薇が植えられています。

サヴィル・ガーデンのローズガーデンは2010年にエリザベス女王が開園を祝福したもので、約2,500株の薔薇が咲き誇る壮大な景観を誇ります。

フラワーショーと薔薇文化

薔薇愛好家にとって欠かせないのが、毎年開催されるチェルシー・フラワー・ショーハンプトン・コート・ガーデン・フェスティバルです。

これらのイベントでは、新品種の発表や育種家の交流が行われ、イギリスの園芸文化の最前線を体験できます。

特にチェルシー・ショーは、王室の後援を受けた世界最高峰のガーデンイベントとして知られています。

結び:イギリスにおける薔薇の意味

イギリスの薔薇の歴史は、古代ローマの文化的遺産から始まり、宗教の象徴王家の紋章、そして庭園芸術の中心へと発展してきました。

薔薇はイギリスの美意識や精神性を映し出す花であり、「戦争と平和」「権力と愛」「伝統と革新」といったテーマの象徴として今も息づいています。

現代のイギリスにおいても、薔薇は単なる花ではなく、国の歴史・文化・感性を体現する存在として、多くの人々に愛され続けています。

以上、イギリスの薔薇の歴史についてでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次